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神戸地方裁判所 昭和62年(ワ)1134号 判決

原告

浜田裕司

被告

桃原里志

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金三三一万二〇四〇円及び内金三〇一万二〇四〇円に対する昭和五七年一一月一三日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告らの負担とし、その余は原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金一二一四万八二九二円及び内金一一一四万八二九二円に対する昭和五七年一一月一三日から右支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(1) 発生日時 昭和五七年一一月一二日午後一一時五〇分ころ

(2) 発生場所 神戸市灘区弓木町四丁目三番一号高羽線路上

(3) 加害車 普通貨物自動車(神戸四五つ二四六九)

右運転者 被告桃原里志(以下「被告桃原」という。)

右保有者 被告株式会社安井冷機設備(以下「被告会社」という。)

(4) 被害車 自動二輪車(神戸ま七〇九九)

右運転者 原告

(5) 事故態様 原告が、前記路上を南から北に向け進行中、進路左端に加害車を停車させていた被告桃原が、加害車を急発進させて被害車に激突させ、原告を路上に転倒させた。

2  被告らの責任原因

被告桃原は、酒気を帯び、注意力を欠いた状態で後方から進行してくる被害車に気がつかず、その前面へ加害車を急発進させたため本件事故を発生させたものであるところ、被告会社は、加害車の保有者である。

よつて、原告の人身損害につき、被告桃原は民法七〇九条により、被告会社は自賠法三条により、後記損害を賠償すべき責任がある。

3  原告の受傷、治療経過

(一) 傷病名

頭部外傷、頸部捻挫、左肘・腰・両膝打撲、右膝半月板損傷

(二) 治療期間及び病院

(1) 通院 西病院

昭和五七年一一月一三日から昭和五八年三月二二日まで(通院実日数一三〇日)

(2) 通院 神戸市立中央市民病院

昭和五七年一一月二二日から昭和六〇年一一月一九日まで(通院実日数一一六日)

(3) 入院 神戸市立中央市民病院

昭和五八年三月二四日から同月二五日まで(二日間)、同年四月一二日から同月二五日まで(一四日間)

(4) 通院 森本カイロプラクテイツク研究所昭和五九年一月二三日から昭和六〇年一月八日まで(通院実日数五七日)

(5) 通院 神戸労災病院

昭和五九年五月二六日から同年七月二六日まで(通院実日数八日)

(6) 通院 増田整形外科

昭和五八年一二月一日から昭和六〇年一二月二日まで(通院実日数一二七日)

(7) 入院 小山整形外科病院

昭和六二年四月一七日から同年七月一一日まで(八六日間)

(8) 通院 国立大阪南病院

現在通院中

(三) 症状固定日 昭和六〇年一一月一九日

4  原告の損害

(一) 治療費(未払分のみ)

(1) 神戸市立中央市民病院 金二万三四二二円

(2) 小山整形外科病院 金一八万五三一〇円

(3) 森本カイロプラクテイツク研究所 金四万一五〇〇円

(4) 増田整形外科 金一万九五三〇円

以上合計金二六万九七六二円

(二) 逸失利益 金五九六万八五三〇円

原告は、本件事故当時、大窪精機工業株式会社で機械工として稼働し、年間金一八一万一五二二円の収入を得ていたところ、本件事故による受傷によつて、右腰痛(骨盤痛)のほか、右膝関節痛と右膝の機能に著しい障害を残す等の後遺症が残り、自賠責保険後遺障害等級一二級七号の認定を受けた。症状固定日である昭和六〇年一一月一九日の時点における原告の就労可能年数は四六年、労働能力喪失率は一四パーセント、新ホフマン係数は二三・五三四であるから、前記年収額を基礎として原告の逸失利益を算出すると金五九六万八五三〇円となる。

(1,811,522×0.14×23.534≒5,968,530)

(三) 慰謝料 金七〇〇万円

原告は、本件事故当時満一八歳の健康な男性であつたところ、本件事故により長期間に亘る治療を要し、その苦痛は多大であり、また、後遺症(右膝関節痛と腰痛)は、原告の日常生活と就業状況に多大の苦痛と不安を与え、かつ、将来における原告の身体に対する不安を持続させるものである。かかる苦痛と不安に対する慰謝料としては、少くとも金七〇〇万円が相当である。

(四) 損害のてん補

原告は、自賠責保険から、本件事故による後遺障害に対する補償として金二〇九万円の支払を受けたので、これを前記4、(三)の慰謝料に充当する。

(五) 弁護士費用 金一〇〇万円

5  よつて、原告は、被告ら各自に対し、右(一)ないし(三)の合計金額から(四)を控除した金額に右(五)を加えた合計金一二一四万八二九二円及び内金一一一四万八二九二円(右(四)を控除した金額)に対する本件事故の翌日である昭和五七年一一月一三日から右支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1  請求原因1の事実のうち、事故態様は争うが、その余の事実は認める。

2  同2の事実のうち、被告会社が加害車を保有していることは認めるが、その余の事実は争う。

3  同3の各事実は争う。

原告の症状固定日は昭和五九年二月ころである。

4(一)  同4(一)の治療費の主張は争う。

(二)  同4(二)の主張のうち、原告が、本件事故による受傷によつて後遺症が残り、自賠責保険後遺障害一二級七号の認定を受けたことは認めるが、その余は争う。

原告は、本件事故後、看護士に転職し、昭和六〇年ころから由井病院に勤務し、昭和六三年三月以降は海星病院に勤務して、月給一九万円の収入を得ており、何ら逸失利益は存しない。

仮に、労働能力の低下により、転職による収入が、将来本来のそれより若干減少をきたすことがあるとしても、原告の本件事故当時における職種(中学卒の機械工)と比較して考えると、その喪失率は五パーセント以下と推定され、また、喪失期間の点も、原告の年齢からして数年経過すれば現在の職種に順応するものと考えられる。ところで、このように若干の逸失利益が認められるとしても、原告には、右膝内障の既往症が存在し、当該逸失利益は右既往症の寄与分に相当すると考えられるから、これを被告らに負担させるべきではない。

(三)  同4(三)の慰謝料の主張は争う。

本件における慰謝料額の算定にあたつては、次の事由が斟酌されるべきである。すなわち、(イ)原告には、関節造影検査を必要とする程の右膝内障の既往症が存在していること、(ロ)原告の入院中、退院を意図的に遅らせようとする作為があつたこと、(ハ)原告は、昭和五八年六月二五日自宅の階段で転倒し、右腓骨を骨折したこと、(ニ)原告の右膝障害については、可動域制限なく、疼痛のみであること、(ホ)症状経過についても、昭和五八年四月の手術以降回復良好で、同年六月以降順調な経過をたどつており、神戸市立中央市民病院、増田整形外科の所見においても、右膝部痛、腰痛が所見記載として散見されるだけであること等の諸事情を総合的に斟酌すると、原告の症状には本件事故以外の諸因子が介在しているものといわざるを得ず、かかる諸因子の寄与率は二〇パーセント以上と考えられる。

そうすると、本件事故による慰謝料は、せいぜい傷害分として金一〇〇万円、後遺症分として金一二五万円、以上合計金二二五万円が相当である。

(四)  同4(四)のうち、原告が、本件事故に関し自賠責保険から金二〇九万円の支払を受けていることは認める。

(五)  同4(五)の弁護士費用の主張は争う。

三  被告らの抗弁

1  過失相殺

本件事故は、加害車が、本件事故現場で一時停止のうえ、右折の指示器を点灯し、後方から進行してきた普通乗用自動車の通過を持つて右折を開始したところ、右普通乗用自動車の後方を追随してきた被害車が、前方不注視のまま漫然と進行してきたためこれを避け切れず、被害車と接触し、本件事故を惹起したものであるから、原告には二〇パーセントの過失がある。

2  損害のてん補

原告は、被告らから、本件事故による損害のてん補として、次のとおり合計金五六〇万一〇九七円の支払を受けている。

(イ) 治療費 金一四二万三三四五円

(ロ) 通院費 金八五万六七九〇円

(ハ) 休業補償費 金三二〇万〇九六二円

(ニ) その他 金一二万円

四  抗弁に対する認否及び原告の主張

1  抗弁1の主張は争う。

被告桃原は、不意に加害車を被害車の前に進出させ、被害車をはねとばしたもので、被告桃原の過失が本件交通事故発生の唯一の原因であり、原告には斟酌されるべき過失はない。また、被告桃原は、加害車を転回させようとしていたものであつて、右折しようとしたのではないし、本件事故当時、呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラムのアルコールを身体に保有していたために注意力を欠いていた。

2  同2の事実は認める。

ただし、被告らから支払を受けた合計金五六〇万一〇九七円は、原告が本訴で請求している損害以外の損害の弁済に充当されている。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

一  請求原因1(交通事故の発生)の事実は、事故態様を除いて、当事者間に争いがない。

原本の存在及び成立に争いのない乙第二八号証、原告、被告桃原里志(後記信用しない部分を除く。)各本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故の態様は、本件事故現場付近道路を北進中の加害車が、道路左端で一時停止した後発進して転回を始めた際、右後方から北進していた被害車と衝突し、原告を路上に転倒させたものであることが認められ、被告桃原里志本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲乙第二八号証の記載内容に照らしてにわかに信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

二  次に、被告会社が加害車を保有していることは当事者間に争いがなく、前記一で認定の事実に、前掲乙第二八号証、原告、被告桃原里志(前記信用しない部分を除く。)各本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すると、被告桃原が加害車を転回させるべく発進させた際、右後方の安全確認を怠つた過失により、右後方から北進してきた被害車の左側に加害車の右前部を衝突させたものと認められ、右認定に反する証拠はない。

よつて、本件事故によつて発生した原告の人身損害につき、被告桃原は民法七〇九条により、被告会社は自賠法三条により、後記損害を賠償すべき責任がある。

三  そこで、原告の受傷、治療経過及び後遺障害について判断する。

1  傷病名について

いずれも成立に争いのない甲第一号証ないし第五号証によると、原告は、本件事故により、頭部外傷、頸部捻挫、左肘・腰・両膝打撲、右膝半月板損傷の各傷害を受けたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2  治療期間及び医院について

前掲甲第一号証ないし第五号証によると、原告は、昭和五七年一一月一三日から昭和五八年三月二二日まで(通院実日数一三〇日)西病院に通院し、昭和五七年一一月二二日から昭和六〇年一一月一九日まで(通院実日数一一六日)神戸市立中央市民病院に通院し、その間、昭和五八年三月二四、二五日の二日間、及び同年四月一二日から同月二五日まで一四日間神戸市立中央市民病院に入院し、昭和五八年一二月一日から昭和六〇年一二月二日まで(通院実日数一二七日間)増田整形外科に通院し、昭和六二年四月一七日から同年七月一一日まで八六日間小山整形外科病院に入院したこと、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない

なお、原告主張の森本カイロプラテイツク研究所及び神戸労災病院への通院については、右通院の事実を窺わせる原告の供述はあるものの、原告主張の通院期間を認めるに足る証拠はなく、また、原告主張の国立大阪南病院への通院の事実については、これを認めるに足る証拠がない。

3  症状固定日について

前掲甲第二号証によると、神戸市立中央布民病院の大寺医師は、原告の症状について昭和六〇年一一月一九日をもつて症状固定と診断し、右同日付けで「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」を作成していることが認められるところ、被告らは、この点に関し、原告の症状固定日が昭和五九年二月ころであると主張し、いずれも成立に争いのない乙第二五号証の一、二によると、前記大寺医師は、昭和六〇年四月九日、弁護士法二三条の二第二項に基づく照会に対し、原告の症状固定日が昭和五九年九月ころと考える旨回答していることが認められる。

しかしながら、右大寺医師の回答は、単に結論のみを述べるに止まり、何ら理由を付していないし、前掲甲第二号証によると、大寺医師は、右回答にもかかわらず、その後も原告に対する診断を打ち切ることなく、これを継続し、昭和六〇年一一月一九日をもつて症状固定と診断していること、また、前掲甲第四号証によると、増田整形外科の増田医師も、原告の症状固定日を昭和六〇年一二月二日と診断していることが認められるから、かかる事実に徴する限り、前掲乙第二五号証の二における大寺医師の回答は、にわかに採用することができず、他に、原告の症状固定日を昭和六〇年一一月一九日とする前記大寺医師の診断を左右するに足る証拠はない。

四  そこで、進んで原告の被つた損害について判断する。

1  治療費 合計金三万七九五二円

(一)  神戸市立中央市民病院分 金二万三四二二円

原告本人尋問の結果及びこれによりいずれも成立を認めうる甲第七号証の一ないし一一によると、被告らは、原告が症状固定日である昭和六〇年一一月一九日までに神戸市立中央市民病院に支払つた治療費のうち金二万三四二二円について未払であることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(二)  小山整形外科病院分 〇円

原告の症状固定日が昭和六〇年一一月一九日であることは、前述のとおりであるところ、前記三、2で認定したところによれば、原告が小山整形外科病院に入院して治療を受けたのは、昭和六二年四月一七日以降であるから、同病院にかかる治療費は、症状固定後の治療費としてそもそも本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

(三)  森本カイロプラクテイツク研究所分 〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、森本カイロプラクテイツク研究所において、マツサージによる脊髄の矯正を継続して受けたことが認められる。しかしながら、かかる費用が損害として認められるためには、医師の指示があることを要すると解すべきところ、本件において医師の指示があつたことを認めるに足る証拠はないから、森本カイロプラクテイツク研究所にかかるマツサージ費用は、そもそも本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

(四)  増田整形外科分 金一万四五三〇円

原告本人尋問の結果及びこれによりいずれも成立を認めうる甲第一〇号証の一ないし一六によると、被告らは、原告が症状固定日である昭和六〇年一一月一九日までに増田整形外科に支払つた治療費のうち金一万四五三〇円について未払であることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2  逸失利益 金一〇六万四〇八八円

原告が、本件事故による受傷によつて後遺症が残り、自賠責保険後遺障害等級一二級七号の認定を受けたことは、当事者間に争いがなく、その症状固定日が昭和六〇年一一月一九日であることは、前記二で認定したとおりであるところ、前記二で認定の事実に、前掲甲第二号証ないし第四号証、原告本人尋問の結果、調査嘱託の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、(1)原告は、本件事故により、頭部外傷、頸部捻挫、左肘・腰・両膝打撲、右膝半月板損傷の傷害を受け、前記の入通院治療の結果、症状は一応固定したが、後遺症として、右膝後外側への軽度引き出し症状、右膝の機能に障害があり、現在も右足と腰の痛みがあること、(2)本件事故当時、原告は、大窪精機工業株式会社で機械工として稼働し、本件事故前の一年間に金一八一万一五二二円の収入を得ていたこと、(3)原告は、昭和五九年八月ころ大窪精機工業を辞め、その後は前記傷害と後遺症のため痛みに苦しみながら、由井病院に勤務するかたわら、看護士養成学校に通学して看護士の資格を取得し、昭和六三年三月から海星病院で看護士として稼働し、一か月約金一九万円の給料を得ていること、以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実によると、原告は、本件事故後の転職によつてむしろ収入が増加していることが明らかであるところ、右の如く本件事故の前後で原告の金銭収入の減少がないことをもつて原告に本件事故による逸失利益が全くないとするのは相当でなく、原告の収入の増加は、原告が苦痛に耐えて努力したことによる結果とみるべきであるから、原告の逸失利益としては、症状固定後七年間を通じ一〇パーセント程度の収入の減少を受けるものと認めるのが相当である。

そうすると、右期間の原告の逸失利益は、次の算式のとおり金一〇六万四〇八八円(円未満切捨)となる。

181万1,522円×0.1×5.874≒106万4,088円

なお、被告らは、原告には右膝内障の既往症が存在するので、右逸失利益は右既往症の寄与分に相当すると考えられるから、これを被告らに負担させるべきではないと主張しているところ、なる程前掲甲第二号証によると、原告は、本件事故前の昭和五六年四月一八日、右膝内障で神戸市立中央市民病院整形外科を受診していることが認められるが、原告の右膝内障がその後の原告の労働能力に影響を与えたこと及びその寄与の程度については何らこれを認めるに足る証拠がないから、被告らの前記主張は、採用することができない。

3  慰謝料 金四〇〇万円

前記認定の原告の受傷内容、治療の経過のほか、原告の後遺症の内容、程度等諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては金四〇〇万円をもつて相当とする。

なお、被告らは、原告の症状には、被告ら主張の如き諸事情が本件事故以外の諸因子として介在し、その寄与率が二〇パーセント以上であると主張するが、被告ら主張の諸事情が原告の症状にかかわつていることを認めるに足る的確な証拠はないから、被告らの右主張を採用することはできない。

4  過失相殺

被告らは、本件事故の発生について原告にも過失があつた旨主張するが、前掲乙第二八号証、原告本人尋問の結果によれば、本件事故現場付近の道路は、中央分離帯によつて北行き車線と南行き車線に区分され、その東側は北行きの二車線道路、西側は南行きの二車線道路であつて、制限時速四〇キロメートルの交通規制がなされていたこと、原告は、北行き道路の中央分離帯寄りの車線を時速四〇キロメートルで走行し、本件事故現場付近にさしかかつたところ、北行き道路の歩道寄りの車線に停止中の加害車が、転回(右折)の合図をすることなく、突然発進して転回を開始したため、本件事故が発生したことが認められ、右認定に反する被告桃原里志本人の供述は、前掲乙第二八号証の記載と対比してにわかに信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、右認定の状況下にあつて、原告としては、他車線に停止中の加害車が突然転回を開始することは予想できなかつたものであり、かつ、予想できないのも無理はなかつたというべきであるから、原告に本件事故発生について過失があるとはいい難く、被告らの過失相殺の主張は採用することができない。

5  損害のてん補

原告が、自賠責保険から金二〇九万円の支払を受けたことは、当事者間に争いがないから、原告の残損害額は金三〇一万二〇四〇円となる。

なお、原告が、被告らから、本件事故による損害のてん補として、(イ)治療費金一四二万三三四五円、(ロ)、通院費金八五万六七九〇円、(ハ)休業補償費金三二〇万〇九六二円、(ニ)その他金一二万円、以上合計金五六〇万一〇九七円の支払を受けていることは、当事者間に争いがないところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、右金五六〇万一〇九七円を、原告が本訴で請求している損害以外の損害の弁済に充当したことが認められるから、前記残損害額金三〇一万二〇四〇円から右金五六〇万一〇九七円を控除することは許されない。

6  弁護士費用 金三〇万円

本件事案の内容、訴訟の経過及び請求認容額その他諸般の事情に照すと、弁護士費用として被告に損害賠償を求めうる額は、金三〇万円と認めるのが相当である。

五  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、金三三一万二〇四〇円及び内金三〇一万二〇四〇円(弁護士費用を除いたもの、原告の訴旨による。)に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五七年一一月一三日から右支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦潤)

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